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反骨のアパシー

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「いえ、まだです」
「早く警察に連絡したまえ。もう夜になるぞ」
 結局は原口園長の鶴の一声で、警察へ捜索願を届けることになった。
「園長、障害福祉課と生活福祉課にも連絡した方がよろしいのではないでしょうか?」
 栄太郎は原口園長にその必要性を申し出た。
「ん、何故だ? 障害福祉課は理解できるが……」
「このまま行方がわからないとなれば、おそらく身元不明者としてどこかの病院に収容される可能性があります。そうした時、身元がわからなければ病院は生活保護の所管部署に連絡をするでしょう。そこで生活保護が決定すれば医療費は保険が利きません。十割生活保護負担となります。その後で身元がわかった時、生活保護法第63条の返還金の問題が生じます」
「身元がわかれば、国民健康保険での請求しなおしができるんじゃないのか?」
 浅田支援部長が横槍を入れた。
「実際はそんな生易しいものじゃありません。医療機関は一度入った収入の過誤調整は嫌うものです。場合によっては医師会を含めて問題となるでしょう」
「筋は筋だ。そうなった場合、病院には過誤調整をしてもらう。生活保護の返還金だって、横内さんは障害年金が余っているんだ。そこから拠出させればいいだろう」
「横内さんの所在不明は、明らかに園の落ち度なんですよ。それなのに安易に返還させるのはいかがなものかと思いますがね」
「まあ、それは君が心配することじゃないよ。無事に見つかってくれれば、いくらでも方策はある」
 栄太郎は肩を落とし、職員室へと引き揚げていった。そして、職員室にある電話の受話器を持ち上げた。
「夜分にすみません。生活福祉課の高橋係長がまだおりましたら、お願いします。こちらは野菊園の北島です」
 高橋係長はすぐに電話に出た。やはり残業をしていたのだ。
「すみません、残業中のところ……。実はうちの利用者が所在不明になったんです」
「ほう……」
 栄太郎はいきさつを簡単に説明し、身元不明の知的障害者が保護されたら、一報を入れてもらうよう、高橋係長にお願いをした。
 高橋係長は「わかった。北島の言う通りだよ」と言い、栄太郎の立場に同情してくれた。

 横内が所持不明となって二ヶ月が過ぎようとしていた。横内の保護者からは野菊園に相当クレームが入った。担当として栄太郎は苦い思いをしていた。
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸