反骨のアパシー
「施設ってところは、そうそう変われるもんじゃないよ」
「人間家畜場……」
栄太郎は唸るように呟いた。
「おいおい、それは言い過ぎじゃないか。人権問題に引っ掛かるぞ」
浅田支援部長が苦虫を潰したような顔をして、栄太郎を睨んだ。
「実態はそうじゃないですか。利用者に個室は宛がわれていますがね。監査の時だけトイレに扉を付け、監査が終わればまた外す。飯だってあれじゃあ、家畜の飼料ですよ。グチャグチャに混ぜて……。人間家畜場ですよ。それに決められたことも守られないようじゃ、組織とは言えないですよ。まあ、今回の横内さんの所在不明は起こるべくして起こったようなものですね」
浅田支援部長も松田寮長も唇を噛んでいた。
「まあ、取敢えず今は寮の職員で捜索に当たってもらっている。北島さんも出勤早々で悪いが、捜索に協力してくれたまえ」
浅田支援部長がつまらなそうな顔をして言った。
「まあ、その辺をうろついていますよ」
松田寮長は軽くそう言った。
「過去の記録を見ると、横内さんは遠方まで一人で行っていますよ。警察に捜索願を届けた方がよろしいのではないでしょうか?」
「それは君が決めることじゃないよ」
浅田支援部長が栄太郎をジロリと睨んだ。
(何を言ってもダメだ。この人たちには……)
栄太郎は職員室に向かい、荷物を置くと、早速、横内の捜索を始めた。
車で野菊園の周辺を練り歩き、帰帆市内の横内が行きそうな場所をしらみつぶしに当たった。だが、有力な情報は何一つ、得られなかった。栄太郎はどこかで無銭飲食で引っ掛かると思っていたのだ。コンビニから地域の飲食店まで回った。だが、それも無駄足だった。
「やっぱり、警察に捜索願を出しましょう」
捜索から戻った栄太郎は、浅田支援部長に進言した。だが、浅田支援部長の態度は煮え切らない。
「いや、ここのところ、不祥事続きだからね。一寸木君のことは内々で処理したが、今年は中島君のセクハラ事件があったばかりだからねぇ……」
栄太郎はおもむろに電話を掴んだ。
「おい、どこに電話を掛けるんだ?」
「帰帆警察署と福祉事務所です。利用者の命が掛かっているんですよ。悠長にしている暇はありません」
「勝手なことをするんじゃない! 判断する時は私が判断する!」
浅田支援部長が声を荒げた。そこへ原口園長がやってきた。
「どうだね、見つかったかね?」