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反骨のアパシー

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「園周を十周も走らせる必要はないと思います。日中活動でも運動はしていますし……。それに自閉的傾向が強いからといって、日課を変更できないことはないでしょう。現在のプログラムは過酷すぎますよ。横内さんはもう、標準体重になっているんですよ」
 栄太郎は負けずに言い返した。
「でも、運動をやめたら、また太りますよ」
 中島が皮肉っぽく言った。
「その根拠は?」
「経験と勘です」
「それは根拠になりませんね。実際、これだけの運動プログラムをさせることは虐待に近いと思いますよ。それに、ケースファイルを見ると、以前は放浪癖があったようです」
「それは以前の話でしょう。今はないですよ」
「園周ジョギング中に所在不明になる可能性がゼロとは思えません。職員がついていない限りはね」
 栄太郎の瞳は真剣だった。松田寮長も「うーむ」と唸った。
 結局、担当の意見が尊重され、横内の運動プログラムは中止することとなった。栄太郎は初めて自分の意見が認められたような気がした。

 事件は栄太郎が夜勤入りの日の出勤直前に起こった。横内が所在不明になったのだ。それは、これから家を出ようとしていた栄太郎に知らせがあった。電話口で松田寮長は慌てていた。
「園周ジョギングをしている最中にいなくなったんだ」
「だって、ジョギングのプログラムはやめるって、先日の寮会議で決まったじゃないですか?」
「中島がやらせていたんだ」
 栄太郎の心の中に灼熱の炎のような怒りが込み上げてきた。
「じゃあ、何のための寮会議だったんですか? 会議は茶番ですか。まったくやってられませんよ!」
 そう言いながらも栄太郎は上着を掴んでいた。
(まったく組織じゃないな……)
 栄太郎は野菊園に向かう途中、そんなことを考えながら、ハンドルを握っていた。
 栄太郎が野菊園に到着すると、管理棟は物々しい雰囲気だった。松田寮長が浅田支援部長に呼びつけられていた。
「まだ横内さん、見つからないんですか?」
 浅田支援部長も松田寮長も渋い顔をする。
「中島さんも悪気があってやったことじゃないんだ」
 松田寮長が中島を弁護するように言った。
「しかし、この前の寮会議で決まりましたよね。ジョギングは中止するって……。私は支援計画にもちゃんと書きましたよ」
 栄太郎は熱く語った。すると松田寮長はバツの悪そうな顔をして、栄太郎を見やった。
作品名:反骨のアパシー 作家名:栗原 峰幸