反骨のアパシー
程なくして中島がポケットに手を突っ込んで園長室にやってきた。
「何スか?」
「君は杉山加寿子と関係を持っていたそうだね。この北島君が君たちがラブホテルから出てくるところを目撃しているんだよ」
原口園長は顔を曇らせながら、ズバリと尋ねた。
「はい。加寿子から関係を迫ってきたんです。まあ、俺は遊びッスけどね」
中島は目を宙に泳がせながら、つまらなさそうに言った。
「仮にも援助する者と援助される者の関係じゃないか。遊びじゃ済まされないよ、これは。杉山さんはね、妊娠したんだよ」
「え、マジッスか?」
「冗談でこんなこと言えるわけないだろう。生理が遅れたんで念のため検査したんだ」
「あちゃー、参ったなぁ……」
中島は特に悪びれた様子もなく、頭を掻いた。
「でも、援助者と利用者が関係を持っちゃいけないって法律はないですよね。そこの北島さんだって生活保護の受給者と結婚したってもっぱらの噂だし……」
栄太郎の表情が険しくなった。確かに栄太郎の妻、律子はかつて栄太郎が担当していた生活保護の受給者だ。しかし、お互いに悩みながらも成就した恋愛だったのである。それを抜け抜けと「遊び」と言い放つ中島に怒りが込み上げてきた。
「私は遊びじゃなかった。本気だった。中島さんは杉山さんと結婚できるんですか?」
栄太郎はたまらず吠えた。
「そんなの無理に決まってるじゃないッスか……」
「だったら私と一緒にしないでください」
栄太郎はきっぱりとそう言うと、心の中で「破廉恥な奴」と中島を罵った。
「まあ、中島君には当分、謹慎してもらうようになると思うよ。堕胎はね、保険が利かないんだよ」
原口園長はしかめ面をしながら、そう言った。それはこの事件を嫌悪しているのではなく、揉め事が厄介なだけのように栄太郎には思えた。
「何で俺が謹慎なんッスか?」
中島は事態の重さがまったくわかっていないようだった。
「緘口令は敷くがね、こんなことがマスコミにでも知られてみなさい。大変なことになるよ。まあ、市役所の福祉総務室には一報入れとかないとな。今はセクハラにはうるさい時代だからな」
「はあ……。そうなんスか」
栄太郎は尚も中島を睨み続けていた。
市役所の福祉総務室の対応は早かった。すぐに中島に停職六ヶ月の辞令を出し、この不祥事に対し、記者発表までしたのである。