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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 9

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「清瀬さん」

このひとに出会えただけで、自分の人生は幸福だったのだろう。

「俺、あなたに出会えてよかったです」

心からそう思う。

「お別れするのはつらいけど…清瀬さんにもらった言葉、忘れない…」

ああ、離れがたい。このひとのそばで、すべてを忘れて生きていけたらどんなにかいいだろう。だけど、それをよしと受け入れることは、いまの旭にはもうできない。

「元気でいてくださいね。あなたがどこかで生きてるんだっていうそれだけで…俺、頑張れそうだから」

清瀬は目を閉じたまま眠っている。起きる気配はない。それでも、旭は思いを零し続ける。もうこれが、本当に最後だから

「…あなたの気持ちを、裏切ります。ごめんなさい」

本当に、ごめんなさい。どうか元気で。
いろんな感情がこみあげて、涙になって落ちていく。頬に触れると温かかった。このひとは生きているのに、俺は一緒に生きることができない。この温かさに二度と触れないのだと思うと、悲しかった。それでも。

もう行かないと。旭は涙をぬぐって立ち上がる。最後にもう一度清瀬の手に触れた。温かさを刻み付ける。大丈夫、もう振り返らない。

「…いいのか?」

一弥の声がする。

作品名:慟哭の箱 9 作家名:ひなた眞白