慟哭の箱 9
「…お願い」
ぽろぽろと涙を零す芽衣。旭は力なく立ち尽くしている。
「わたしのことは忘れて、幸せになって。お願いだから。ねえ、わたしの願いを、今日くらいは叶えて…」
旭はもう、それ以上何も言わなかった。打ちのめされたように固まっている。
「清瀬さん…旭をお願いします…」
「…わかったよ」
秋田に連れられて行く芽衣が、清瀬に深々と頭を下げた。
芽衣の願いもむなしく、今後、旭もまた罪に問われることになるだろう。おそらく殺害の計画を練ったのは一弥だ。多重人格であることがどう絡んでくるかはわからない。それでも、旭もまた証言台に立つことになることは明白だった。どれほど芽衣が庇おうが。そんなことは、旭も芽衣もわかっているのだと思う。それでも、互いを罪人にしたくないと庇いあうのだろう。大切な人だから。
やるせない。これでよかったのか?
誰が幸福になれるというのだろう。結局自分は、罪を白日の下にさらけ出して、つらい記憶を掘り起こして、いたずらに彼らを苦しめただけなのではないか。
.