慟哭の箱 8
「……清瀬さん、」
清瀬の胸に倒れこんだまま、旭が言った。涙声が震えている。
「須賀、くん…?」
「ごめんなさい…大丈夫ですか…?」
「きみが、スイッチして、助けてくれたのか…」
静かに顔を上げた旭は頷く。
「…一弥は不安定で、今の俺になら簡単にスポットから外せるみたいです」
「そうか…」
叫び声が、まだ耳に残っている。あの絶叫。一弥の絶望が、初めて声となって清瀬に届いた。
「…真尋との会話を聴きました」
「うん…」
「涼太の記憶を、もらってきました。一弥の、痛みも」
肩を震わせて、項垂れる旭。
「…思い出したのか?」
過去を。
「すべてでじゃないです。両親が死んだ夜のことはまだ。でも…両親や、武長のおじさんから受けた暴力のことは、断片的に…」
「…そうか」
一弥の不安定さが、様々な変化をもたらし始めている。記憶が戻るのは、治療をすすめるために不可欠なことだが、一弥の不安定さについてはどうとらえればいいのだろう。
あの絶叫。感情を露わにした彼の変化は、狂気を加速させていきそうな危うさを秘めている。治療以前の問題だ。一弥の動向にも、慎重に目を配る必要がある。