慟哭の箱 8
腕をどけた真尋の顔は、冷たい笑みを浮かべている。一弥だ、と思う間もなく、猫のように跳ね起きた彼に首を捉えられ、そのまま床に押し倒された。馬乗りになって体重とともに首を締め上げてくる一弥。
「ぐっ…!」
喉が熱い。呼吸ができない。
「…あんたは知らないんだ」
目の前に、一弥の顔がある、ぎらぎらした瞳に浮かぶのは笑みなのに、泣いているように見えた。狂気を帯びたその瞳から、目を逸らせない。
「愛のない家族、愛のない教育、愛のないセックス…俺は地獄を見たよ。もう怖いものなんて一つだってない。あんたを殺すことだって、躊躇いなくできるんだ」
かすれた声が笑う。
「いち、や…」
「あのとき、助けに来てくれなかったくせに…今更なんだよ…今更救いに来たって遅いんだ…もう戻れない…」
白くなる視界に降ってくる声とともに、締め上げてくる力が弱まっていくのを感じる。
「助けに来てくれなかったじゃないか!!何度も何度も叫んだのにッ!!」
絶叫を最後に、一弥の身体から力が抜けた。ひりつく喉押さえをながら、倒れこんできた身体を受け止める。ゆっくりと呼吸を整え、胸にある熱い頭に触れた。