慟哭の箱 8
「…両親の頭が上がらないのをいいことに、あの男は旭を弄んだ。両親も知りながら放置した。死んで当然だよねえ、そんな親は」
真尋の目に、はっきりと怒りが浮かぶのがわかった。
「一度や二度じゃない。旭が中学にあがるまで、虐待は続いたんだ」
無力な者を、権力者が傷つける。吐き気がするほどに残虐な振る舞いだと思う。
「旭は逆らえなかった…両親に捨てられたら、また行き場を失うから。二度も棄てられるわけにはいかなかったから…だから黙って耐えるしかなかった…そして心がばらばらに壊れたんだ…」
言葉が途切れて、両腕で顔を覆った真尋がソファーに横たわった。
「…真尋」
つらい記憶を、ずっとずっと閉じ込めてきた。生きるために、心を壊すしかなかった。地獄だと、芽衣は言った。その通りだ。旭は地獄を見てきた。守ってくれるはずの両親からの虐待、心無い大人からの暴力。怖かったと思う。苦しかったと思う。想像することしかできない自分は、本当に無力だと思う。
「――ねえ清瀬さん」
顔を両腕で覆ったまま、真尋が口を開いた。声は、笑っているようだった。
「あのときどうして来てくれなかったの?」
笑いたいのをこらえているようなその声に、清瀬は不穏なものを感じて緊張する。
「助けてって、俺はずっと叫んでたのに」
「…真尋?」