慟哭の箱 8
「…わたしは逃げたんです。助けてっていう声を確かに聴いたのに。それがわたしの罪なの…あのとき助けてあげられたら…」
あの子を置き去りにした。
「誰もきみを責められない」
清瀬の声は、罪を裁く審問官のものとは程遠い、静かで柔らかな声だった。差し出してくれたハンカチからは清潔な石鹸の香りがする。
「つらいことを思い出させて、すまなかった」
芽衣はかぶりを振る。どんなに庇われても、罪は罪だ。弱かった自分を言い訳にできるほど、芽衣はもう子どもではない。それでも、優しい声が嬉しかった。
「…もう一つ、いいかな」
清瀬は最後に問うた。
「一弥が次に復讐しようとしているのは、誰だい」
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