慟哭の箱 8
旭が七歳のころだ。
大丈夫、いいひとたちだから。お金持ちなんだって。芽衣は心配しないでね。
短いショートステイから戻り、旭はそう言って寂しそうに笑っていた。
「旭は大人しくて聡い子でしたし、須賀の家のひとたちに気に入られたんです。あとからわかったことだけど、あの家は、会社の跡継ぎを探していたそうです。旭は賢かったから選ばれたの」
旭が幸せになれるなら。そういって芽衣は彼を送り出した。旭が幸せになれるなら、わたしも寂しいくらい我慢できるよ、と。
二度と会えないわけじゃない。そう信じて。
「新しい生活の邪魔をしてはいけないって、それから連絡を取りませんでした。年賀状のやりとりはあったけれど、元気そうで安心したのを覚えています。だけど、違ったの…」
「違った?」
「旭が須賀の家で地獄を見ているなんて、思いもしなかった…」
「地獄…」
旭が養子になって三年が経った春。芽衣は彼に会いに行った。年賀状の住所を頼りに、電車を乗り継いで。約束もなしに行ったのは、驚かせようと思ったわけではなく、一目だけども元気な姿を見られればいいと思ったから。
「笑っているところ見られたらそれでいいって…あの子は年賀状に書いてあった通り、楽しく幸せに暮らしていると、信じて疑わなかった」
だけど。
大きな屋敷にたどり着き、こっそりと塀の隙間から中をのぞいた。豪邸だった。勝手に入れば、間違いなく警備会社が飛んでくるような。それはまるで、旭を閉じ込めているかのように、芽衣には思えた。