慟哭の箱 8
地獄
小さくて、とても可愛らしい子だった。初めてその子どもを見たとき、芽衣は嬉しかった。弟ができたみたいで。施設では、四歳の芽衣が一番小さくて、だから自分より小さな彼を見たとき、今度はわたしが守ってあげなくちゃと使命感に駆られたことを覚えている。
出会ったとき、旭はまだ二歳だった。
半ば遺棄されて保護された彼は、がりがりに痩せていて、言葉をまったく発しなかった。
「はい、お茶のむ?」
「とんとんしてあげるからね」
「怖くないよ、ここにいたらもう大丈夫だからね」
表情を変えない人形のような旭を、芽衣は人間に戻そうと必死だったのだと思う。
笑ってよ。つらいときは泣いていいの。そう言ってあげたくて、ずっとそばについて世話を焼いた。
「…めえちゃん」
旭が初めて自分の名前を呼んで笑ってくれたときのことを、芽衣はずっと忘れない。出会って一年が過ぎていた。あのときの喜びが、いまの自分を支えてくれていることも。
「わたしにとって、あの子は家族同然だったんです」
清瀬は静かな瞳で、言葉をはさまずに聞いてくれている。話しているうちに、芽衣は心が静まっていくのを感じていた。懺悔をする罪人とは、こういう心境なのだろうか。微動だにしない清瀬の深い瞳を見つめ返し、芽衣は続ける。
「…だから須賀の家との養子縁組が決まった時…わたしは寂しかったけど賛成しました」