慟哭の箱 8
「清瀬さんは、どうなれば彼らを救済できると考えているのですか?」
静かな声で問われる。
「どうなれば…?」
「野上先生の目指す治療は、人格統合です。もちろん僕も、そこを目指してみんなを導くつもりです。でもね、人格が統合されたら、旭以外のみんなは」
消えてしまうんですよ、とイシュは言う。
「正しくは混じり合うのだけど…消えるわけじゃなくて、旭の中の心の海に戻っていく。でもそれって悲しくないですか。真尋たちは旭の幸せのためならって承諾すると思うけど、もう真尋という意思はなくなる」
「……」
「ごめんなさい。いまは事件の話でしたね」
イシュがそう言って向き直る。
「芽衣と旭が接触することで、旭の中にどんな思いが生まれるかは僕にも断言はできない」
「正しいのだろうか、それは」
あの子の心を、あの子たちの心を、さらにかき乱すことになりはしないだろうか。
「旭のすることは、すべて正しい。だから僕は信じている」
静かに断言するイシュ。迷いも躊躇いも一切ない言葉の使い方だった。
「僕は旭の良心であり理性だ。だから僕は、あなたのことも信じている」
射抜くようにまっすぐな視線。怖いくらいだ。絶対に逸らされることのない目。