慟哭の箱 8
「旭が信じたあなたを、信じている」
金縛りにあったかのように、清瀬は動けない。イシュの言葉は、まるで神の託宣だ。こうせよ、ああせよ、と暗に指示しているのではなく、おまえを信じてすべてを託す。任すと言うのだ。この自信はどこから来るのだろう。清瀬とて人間であり、ミスを犯すこともある。事態がイシュの思惑通りに進むとは限らない。イシュはそれすら見越して、理解して、それでも信じると断言するのだ。イシュの心の在り方は、常人の域を超えている。手放しに信じるというのは、盲信でもある。
イシュには未来が見えているのか?
だからこそ寄せられる信頼なのだろうか。清瀬にはわからない。
「清瀬さん」
「うん?」
「あなたでよかった」
瞑目するイシュの言葉は、夜の中に溶けていく。
「あの子らが、初めて出会う正しい大人が、あなたでよかった」
にっこりと、彼はそう言って笑うのだった。出会うことさえ、イシュにはわかっていたのかもしれない。そう思わせる笑い方だった。
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