慟哭の箱 7
清瀬の目が、穏やかな中に刑事の鋭さを含み始める。芽衣は全身を緊張させた。
「では」
清瀬の声が、低められたように感じる。
「あなたは、彼の中にいる他人格とも接触していますか?」
芽衣は今度こそ、衝撃を飲み込むことができなかった。
「…うそ、どうして」
どうして知っているの…?
「わたしはいま、わけあって彼の身柄を預かっています。一緒に生活している中で、彼の記憶や行動に多くの疑問を覚えたんです」
「…そんなはずない、なんで一弥は許したの…?」
絶対に他人に知られてはいけない秘密の一角が、崩れている。芽衣はそれを悟った。
もう、逃げられないということも。
「…知っていることを教えてもらえないかな」
くだけた口調は、恐慌をきたしている芽衣を落ち着かせるためだろう。柔らかな声だった。
「彼が幼少期、心を分裂させてまで逃げようとしたものがなんだったのか」
「…一弥は、なんて?」
一弥。一弥は、この事態を把握しているのか?彼の指示を受けてはいない。どうすればいいのか、わからない。
「一弥は話すことも心を開くことも拒んでいる。俺が持っているのは、真尋から聞いた情報だけだよ」