慟哭の箱 7
日の暮れた公園で、清瀬はちゃんと待っていた。六時を過ぎて、気温はぐんと下がっている。彼はベンチに腰掛けており、芽衣に気づくと立ち上がった。
「すみません、お待たせしました」
「構いませんよ。ここは寒いから移動しませんか」
職場の近くであることに配慮してか、清瀬はそう提案して歩き出す。芽衣は承諾してあとを追った。
もうすぐ冬が来る。ライトアップされている街の街路樹の下を歩いていると、季節がもうこんなに進んでいたことに驚いてしまう。この街に雪が降るのも、もうすぐだろう。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
大型のコーヒーチェーン店に入り、清瀬が温かなマグカップをテーブルに置く。かじかんだ手に心地よい温度。ありがたくいただくことにする。
「須賀くんのご両親が亡くなった事件はご存知ですか?」
「ええ…ニュースで見ました…」
清瀬は、その事件を担当していること、須賀夫妻と彼にまつわる人物に話を聴いて回っているのだと告げた。
「あなたは彼が須賀夫妻に引き取られるまで、白百合の家で彼と一緒に育ったそうですね」
「そうです。旭は、二歳のときに白百合の家に来ました。わたしも孤児で…旭を弟のように可愛がっていました」
両親を失い幼くて無力だった旭を、芽衣はずいぶんと気にかけたものだ。あのころが懐かしい。あのころのままいられたら、どんなに…。
どんなに幸せだったろう。
「彼が須賀の家に引き取られてから、親交は?」
跳んでくる質問に、戸惑いつつも答える。この刑事は、何をどこまで知っているのか。そして自分は、どこまで答えてよいのだろう。不安が押し寄せてくるが、逃げ出すわけにもいかない。
「…時折電話で、近況を伝えあったりしています。旭が大学に合格した二年前、一緒に食事をしてお祝いもしました」