慟哭の箱 7
鏡像
交換日記は日に日に賑わってくる。旭はカウンセリングからの帰り、電車の中でノートに目を通していた。
(真尋は面白いこと書いてくれるなあ。涼太も絵が上手だし…)
旭は頬を緩める。自分の中の誰かが自分の知らぬ間にノートに何か綴っている、それは常人からすれば恐怖かもしれないが、旭にとっては心強くて頼もしいことだった。受け入れることが難しいと野上は言ったが、旭にとって彼らは奇妙な友人のような存在で、味方でもある。
『清瀬さんが、ハーゲンダッツは給料日きてからだって。でもガリガリくん買ってくれた』
『きょうは おまわりさんが えほんよんでくれた かっぱのほんでした こわかったです かっぱは きゅうりがすきなんだよ』
二人は清瀬が帰ってきたことを喜び、信じてくれているようだった。氷雨、そしてタルヒと呼ばれる人格からは今のところアクションはない。
(…一弥も、反応なしか)
一弥。自分の支配人格だと説明された。人格たちの采配をし、こちらは優位に生きられるよう操作をしているという。
(だけど一弥は…俺を守ってくれてきたんだ)
他者に存在を暴かれるまで、旭と旭を含む人格たちを守ってきてくれた。清瀬や、救いの手を差し伸べようとするものに大きな不信感を抱いているらしいが、旭は彼を敵だとは思えない。
(いつか…)
一弥と分かり合えるときが来るだろうか。他人の温かさを、一弥にも知ってもらいたい。それが旭の自己満足であることはわかっていても、願わずにはいられなかった。
(清瀬さん、今日は帰りが遅くなるって言ってたなあ…)
朝早くから出かけていった清瀬。休む間もなく事件に、そして旭に向き合ってくれる清瀬を思うと、旭にもまた活力がわいてくる。
(俺も頑張らなきゃ…)
暗くなる窓の向こうをみやり、旭はノートをそっと閉じた。
.