慟哭の箱 7
大丈夫。落ち着いて。
「須賀旭さんをご存じですか?彼についてお聞きしたいんです」
「ええ…はい、知っています」
やはり。いつかはここへ須賀旭の名とともに刑事が来ることも想定していたが、予想していたよりも早かった。
「…でも、わたしまだ仕事が」
「ああ、そうですよね。お忙しいのにすみません。お仕事が終わるころに改めてお伺いしても?」
「今日は夜の六時にはあがりだから、河川敷にある公園で待っていてもらってもいいですか」
かまいません、と清瀬は笑った。優しい笑顔だった。威圧感や、こちらを油断させようとする狡さは感じられない。強烈に引き寄せられる引力がある。刑事?本当に?テレビドラマでは二人組でいるのをよく見るけれど…。
「うりゃっ。俺は怪しくないぞ」
「やーん!ごめんなさーい!」
刑事に頭をぼさぼさとかきまぜられて、小学生二人が嬉しそうに笑う。
「では後ほど」
清瀬が背中を向けて歩いていく。
「せんせえ、あのひと怪しくなかったねえ」
「そうよ、お客さんに失礼なこと言っちゃだめよ?さ、ほかのみんなも戻ったらおやつにしようね」
はあい、と無邪気な小学生らが玄関に走っていく。その姿を微笑ましく見送ってから、芽衣は呟く。
「怪しくなんてないわよ…あのひとは、わたしを」
わたしを。
わたしたちを。
裁きに来た司法の使い。
(ううん、違う…)
あのひとは、わたしたちを救いに来てくれた、正義の味方なのかもしれない。
長い苦しみ連鎖を、断ち切ってくれるかもしれない。
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