慟哭の箱 6
「だっておまえ…俺はここに泣きに来てるのに、おまえがどこまでもくっついてくるから、それに帰ろう帰ろうって大泣きするから、俺はゆっくり泣けやしなかったんだ」
「ふふ、そうそう。わたしが泣いてたのよね。お兄ちゃんが一人ぼっちで、どこか遠くに行くんじゃないかって心配だったの」
でもね、と梢が暗い海を見つめて笑う。
「お兄ちゃんは、絶対わたしを連れて、家に帰ってくれたよね」
「……うん、」
「父さんと喧嘩してわたしが家出したとき、真っ先に探しにきてくれた。結婚が決まって不安でたまらなかったわたしの背中を押してくれたのもお兄ちゃん。旦那に頭下げて、絶対幸せにしてやって下さいって頼んだこと、わたし知ってるのよ」
「…よせよ、」
言うなっつったろーが、義弟め。ああもう、顔が熱い。
「子どものとき、ガキ大将にいじめられたわたしのために、そいつのこと怒ってくれたよね。嬉しかった。お兄ちゃんはわたしのこと嫌いなのかなって、思ってたから」
そんな時期もあった。両親同様に、善良で無垢な梢を受け入れることができなかった時期が。
「妹に何かしたら許さないって、わざわざ小学校の教室まで来てくれて…あのとき妹って言ってくれたの、わたし最高に嬉しかった」
「……うん、」
「そういえば覚えてる?わたしが初めて旦那とデートしたとき、心配しすぎてつけてきたでしょ?」
なぜばれた…。俺の尾行は完璧だったはずだ…。
背筋が凍る思いのする清瀬だった。
「……あのときはほんとすみませんでした」
「まったくだわ」
「だっておまえ、男は狼なんだぞ!」
「ブフーッ」
「笑うな!あ~~~もう忘れてくれ!!」
過去の己の恥ずかしい行いが思い出され、清瀬は顔を覆う。梢はそれを見て笑うのだった。
「嬉しかったんだよ。お兄ちゃんが、わたしを心配してくれてること」
「…そうか」
「わたしも、父さん母さんと同じ気持ち」
「うん…」
「今までもこれからも、わたしの自慢のお兄ちゃんだからね」
「…わかってる」