慟哭の箱 6
わかってるよ、と清瀬は繰り返す。梢はそれならいいの、と笑った。子どものころと変わらない屈託のない笑顔で。
「俺はもう、ここで泣きたいことなんて一つもないんだ」
「うん…」
「父さんと母さんと、梢のおかげだ。この夜の海を見ても、もう悲しくない。死にたい、消えたいって、思わない」
ありがとう。そう伝える。
「でもお兄ちゃん、まだ泣いてる子がいるよ」
「うん?」
「助けてあげなくちゃね」
ああ、そうだ。
かつての自分と同じ暗闇の中で、不安を抱えている魂たちのところへ。
「帰ってやらなくちゃな」
信じさせてと真尋は言った。あのとき、もう二度と彼らに絶望を与えつてはいけないのだと痛切に思った。それが、出会った大人である自分の、彼の心に触れて扉を叩いた自分の責任なのだと。