慟哭の箱 6
「あんたは母さんがお腹を痛めて生んだ、大事なうちの長男よ。自慢のね」
「……はい、」
ああ、こんなに簡単だったのか。
清瀬が考えていたよりもはるかに単純明快で、たけど、どんな言葉よりも欲しかった答えだった。
「しかし、おまえをそんな風に悩ましてたのは、俺らの罪だな」
「…ちがいます、俺が…」
「もういい、そんなくだらんことで悩んでくれるな。おまえがこの先頑張らなきゃならんことはただ一つだ。いいか?幸せになることだ。それ以外のことなんか、何一つせんでいいぞ」
わかったか、と言い、父は大きな手で昔と同じように髪をかき混ぜてくれた。この手を煩わしいと思うこともあった。触らないで、あなたまで穢したくない、と。だけど今は、心から思う。
この手の温かさは、自分の手と同じ温度を宿しているのだと。梢のみそ汁が母のそれと同じ味なのと一緒だ。家族なんだ。
「…俺は幸せでした。今日までずっと。これからもずっと」
精一杯の心をこめて、両親に告げる。
「…生まれてよかった。そう思います。このうちの家族になれたから」
ならいい、と父は笑った。母も。
生まれてよかった。
その言葉を、旭の口からも聞きたいと、清瀬は唐突に思った。生まれてよかった。どんな闇に生まれついても、光を目指して歩いて行けるのだと。幸福に手が届くのだと。
もうそんな暗い所にいないくていいのだと伝えたい。両親が清瀬を救ってくれたみたいに。
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