慟哭の箱 6
堰を切ったかのように涙があふれた。
自分の半生と、そこで悩み苦しんだ己が哀れで泣いた。
なんで自分が、どうして。そう繰り返し悲しみをほとばしらせている幼い子を前に、清瀬はきっと手を払いのけることなどできない。その子の気持ちが痛いほどわかる自分に、できるはずがない。
「巽。俺も母さんも、自分たちが何か特別なことをしたとは思っちゃいない」
父は静かに続ける。
「ただ、かわいそうだったんだ。バカ親のせいで苦しんで、泣くことさえ罪だって腹に抱えた、小さい小さいおまえのことが。俺らが親だったら、絶対幸せにしてやるのにって、腹がたって悔しかったんだ。それだけだ」
悔しかった。そう言い放つ父の声が、ほんの少しだけ上ずっていて、清瀬はそこに父の本当の心を見る。ああ、怒ってたのか、とそう思う。
「おまえは血が血がっていうけど、おまえの血はもう穢れてなんてないぞ。一つ屋根の下で暮らして、一緒に笑って苦しんで、俺たちの血はもう混じり合ってんだ。俺たちは家族だ。このさきお前がどんな生き方をしたって、これまでのおまえがどんな生き方をしてきたって、俺らはそれだけは譲らんぞ。おまえは俺と母さんの子で、梢の兄貴だ。文句あるか?ん?」
あふれた涙が熱い。喉の奥から声にならない嗚咽がせりあがってきて、言葉を紡げない。清瀬はただ首を振る。
「そうよ。誰にも文句なんか言わせないわよ。だってあんたの意地っ張りなとこは父さんそっくり。手先が器用なとこはわたし似でしょ?」
「なにっ、俺は意地っ張りか母さん」
「意地っ張りですよ。頑固クソ親父ですよ。それに巽、あんたの泣き虫なとこは、梢にそっくりだものねえ。ほら、鼻セレブ使いな!」
そう言って母が、ティッシュの箱を豪快に清瀬に差し出す。