慟哭の箱 6
「……朝か、」
夢うつつを行き来して目覚める。実家の仏間。障子の向こうの外側は、もうとっくに明るい。
「…十一時!?」
壁の時計を見て、清瀬は飛び起きる。ものすごく眠ってしまった。慌てて身支度を整え居間へ出ると、母が笑って迎えてくれた。
「ゆっくり眠れた?」
「すみません…寝坊…」
「休暇のときくらいのんびりなさいな。座って、何か食べる?」
母はおにぎりを握って、温かなみそ汁を出してくれた。母のみそ汁は、梢の作ったそれと同じ味がする。家族の味だ。清瀬は幸福な気持ちで満たされていく。
「父さんは?」
「今日は公民館で陶芸教室の日よ」
趣味の陶芸が高じた父の作品は好評だそうで、地元のお年寄りや会社帰りの若者に土いじりの楽しさを教えている。この家にも父の作った茶碗なんかが使われていた。
「わたしは今日はお休みなの」
「何かお手伝いありますか?」
「たまの休みなんだからのんびりしてなさいって言っても、だめみたいねえ」
母が呆れたように笑う優しい顔が、清瀬は好きだった。ふんわりとやわらかくて、なんだかくすぐったくなる。