慟哭の箱 6
自分の幸福だけをひたすら祈り続けていた。
なんで俺だけ。
酒に酔った父の暴力に身体を丸めながら。
なんで俺だけ。
おまえなんか産まなきゃよかったと笑う母の辛辣な言葉を聴きながら。
なんで俺だけ。
どうして俺だけ。
子どもが親を選んで生まれてくるなんて嘘だ。自分は二人の享楽の果てに生まれた望まれない子ども。
息を殺して、己を殺して、ただ夜が過ぎていくのを待つだけの自分。
こんな家、出て行ってやる。自分で金を稼げるようになったら。それまでひたすら耐えて、耐えて、いつか笑って、好きなことをして生きてやる。
あいつらみたいにならない。あんな大人に絶対にならない。もう二度と、自分をさげすんだり傷つけたりさせない。絶対に。
しかし清瀬を待っていたのは殺人犯の息子になるという未来だった。両親は死んだ。それは嬉しい。だけど、人殺しの息子として残された。
人殺しの子どもが、幸せになるなんて許されない。これまでの泥水をすするような生活よりも、苦しい日々が清瀬を待っている。そう思って絶望した。
だけど、そんな日々は続かなかった。
自分が、誰かの幸福を願うようになる日がくるなんて、想像できなかった。
温かな人間らしい心に触れた。
これまでの人生をまっさらに清算したいという思いを汲んでくれた二人から、新しい名前をもらった。清瀬巽として生まれ変わったのだ。
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