慟哭の箱 6
「おまえ、誰だ…」
いつもは冷酷で冷静な声が、上ずっている。
「え、誰?あたしたちのほかに誰かいたの?」
「そんなはずないよ!だって一弥が管理してるんだ。一弥の知らないやつが、ここにいるはずないだろ!」
「でも声がするじゃん、聞いたことないよ。誰なのよアンタ!」
ざわめく場に、また声が降る。
「僕はね、ずっとみんなを見てた。みんなには見えてはいないけど」
涼しげな、どこか機械的な声。どこから響いてくるのだろう。椅子は全部で六つしかないのに。旭と、女性、子ども、けだるげな男、真尋、そしてリーダーらしき男。六人だけの空間だけのはずだ。
「僕はね一弥、旭の思いに同感だ。きみたちが弱いのは、いつまで経っても暗闇と記憶にしばられているのは、信じる勇気がないからなんだ」
旭の伝えたかったことを、その声は代弁してくれている。旭にはそう思えた。
「僕は七人目の心。でも正確に言えば、ゼロ番目の旭の心だ。旭が己の心を示したことで、ようやくここに来ることができたよ」
ゼロ番目…?
声は、どこか懐かしい気がする。まるでずっと昔から知っているような。いつもそばにあったような。生まれる前から知っているような。
「さあ旭、目覚める時間だ」
声は言う。一弥と呼ばれた革靴の男が抗議の声をあげようとするが、それはもう旭に届かない。まっすぐに、この声を信じよと、自分の中の何かが語り掛けてくるのだ。
「清瀬巽が戻ってくる。あのひとを信じた君は正しい。お行き」
導かれる。光のほうへと。
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