慟哭の箱 6
「…清瀬さんは戻ってくる、」
旭はなんとかそう伝える。この声を発するたびに苦しいのはきっと、旭がここで発言権を持てない弱い存在だからだ。だけど、それではだめだ。俺の言葉で、みんなを導かないと。
「うそ…旭が、しゃべった?」
女性が驚いたように言うのが聞こえる。
「俺は信じてる…誰に何を言われようが、たとえ裏切られたって…あのひとがくれたぬくもりまで、ウソになるわけじゃない…」
優しくしてくれた。自分のために骨を折ってくれた。温かいご飯。言葉。ぬくもり。そして、話してくれた過去のこと。
「裏切られても、信じ続けることが…俺たちみんなに欠けてるものなんだ…だからいつまでも…ここは暗くて…寒くて…俺たちは不安なんだ…」
だから、どうか。信じる勇気を。
「僕もそう思う」
聞いたことのない声が響く。がたんと音をたてて、革靴をはいた足が立ち上がる。