慟哭の箱 6
勇気
椅子が輪になっておかれた、暗い箱の中。
「もうあの刑事は戻らない」
冷たい声が反響する。まるでトンネルみたいだ。
「そんなことない」
これは、ああ真尋だ。真尋の声だ。旭はそれを知っている。スニーカーの足元をぼんやり眺めながら、真尋の熱っぽい声を聴く。
「あの人は、帰ってくるって言った。俺は信じる」
「俺が信じるなって言ってもか」
「…信じたい、」
真尋は絞り出すように言う。
「どうかな?全部を知っても、わたしたちを受け入れてくれるのかな?」
女性の声。サンダルの足元が言う。
「ぼくは、おまわりさんを…信じたいよ」
「…俺はどーでもいいけど、裏切ると思うなあー」
子どもの声と、けだるそうな男の声が続く。
言わなきゃ、と旭は重い頭を上げて声を出そうとする。だけど、力が入らなくて、声を出すのがひどく億劫だった。
(だめだ…俺が、しっかりしないとだめなんだ…)
遠くなりそうな意識を呼び戻そうと、必死で自身に言い聞かす。
ここで彼らに決めさせちゃだめだ。俺自身の問題を、彼らにゆだねてはいけない。
そうやって、見ないふりをして、すべてを任せて。それではだめだ。変わりたい。
思いを示せ。