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怪人と 1度もおまえに呼ばれなかった

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15 死体にはめて埋めてくれ



「生きて
あなたの
妻になります」

耳を疑う
恍惚だった

冥土の土産に
耳にするにも
身に余る
恍惚だった

青い瞳は
真っすぐに
私を見上げて
怯えなかった

思考が途切れ
心が砕け

物が
何にも
言えなくなった

正気なのか?

恐怖で
気でも狂ったか?

真ん前に
私が立っても
逃げもしない

抱き寄せてみても
拒みもしない

額に触れても
赦すのか?

口づけても
悲鳴を上げたり
しないのか?

ほんとうに
恐る恐る
体の芯から
震えながら

唇と
呼ぶも哀れな
代物で

おまえの額に
私は触れた

それでも額は
動かなかった

「裏切り者でも
あなたの妻に
なれますか?」

声を殺して
泣く人を

どれほど長く
抱きしめたろう

終わったと
私の中で
声がした

自慢の火薬は
出番もなかった


(2)

2人は去った
追い出した

もうモルヒネも
必要あるまい

どうせ長くは
ない命

ましてや
今夜の騒動で

尽き果てる日も
早まったはず

その日が
来るまで
持っててくれと

件の金の
指輪を預けた

私が死んだと
知らせを聞いたら
死体にはめて
埋めてほしいと

そのことだけ
念を押して

若者に
おまえを返した

幸せを祈ると
追い立てた

もう充分だ

この世の全てが
憎む私を

おまえだけは
拒まなかった

怯えずに
寄り添って
くれようとした

過分の夢を
見せてくれた

これ以上
望むとしたら

おまえの幸せ
以外ない

あの男と
幸せになれ