慟哭の箱 5
嬉しかったしありがたかったけど、清瀬はずっと悩んできたのだ。両親は本当はつらいのではないか。梢だって何も言わないけど、つらい思いをしたのではないか。
俺は、いないほうがいいんじゃないか。
この太陽のような家族に、ふさわしくないのではないか。
そう考えて、高校は無理を言って県外に進学した。公立で寮のついたところを選び、必死で勉強した。おまえが望むなら応援すると、両親は寂しそうに送り出してくれた。梢もまた、寂しいくらいは我慢すると、納得してくれた。あのときは本当に頭が下がる思いだったっけ。
家族の清瀬への思いを、疑ったことは一度もない。だけど、清瀬は須賀旭を前にわからなくなっていた。
刑事になったのは、実の両親を生涯軽蔑し、正義を全うすることで、自分の穢れた血を少しでも薄めるためだった。自分は殺人を許さない。刑事とはそのスタンスを的確に表してくれる仕事であり、その意思を表示する限り自分は清瀬家の子どもとして許されると思ったからだ。
(もしも…須賀くんが殺人を犯していたら)
自分は両親のように、彼を許せるだろうか。
それを知りたくて、ここに戻ってきたのだ。自分の思いを知るために。
「巽、」
風呂場の窓から、父の声が聞こえる。
「はい」
「いい湯加減だよ。ありがとう」
清瀬の両親がくれたこの温かな思いを、自分はあの子たちにも手渡すことができるのだろうか。大人を信じず、繋がれず、小さな箱の中で戦ってきた、須賀旭らに。
.