慟哭の箱 5
「テレビ見ながらどっかりトドみたいに寝っ転がりなさいよ。息子の里帰りなんてそんなもんよ」
母の言葉に思わず吹き出してしまう。
「父さんも、これでもう畑もひと段落だから。みんなでごはん食べましょ」
「ようやっと大根の種まきだ」
見れば父は作業着姿で、日に焼けた顔も泥で汚れている。
「すぐに風呂の支度をしますね」
「すまんな巽」
両親はかつて小学校で教べんをとっていた。定年を迎え、趣味の陶芸や生け花の先生をしながら、畑を耕して暮らしている。両親の虐待、そして両親を失った清瀬のことを知り、養子として引き取りたいと申し出てくれた二人。
(…思えば、昔は反抗したっけな)
清瀬は薪風呂に水を汲み火を起こしながら思い出す。
清瀬の実の両親は殺人犯だ。借金によるもめごとの果てに知人を刺し、交通事故の果てに死んだ。そんなクズの息子を引き取りたいなんて、おめでたい偽善者だと、幼かった清瀬は二人を拒絶した。妹となった梢も同様に遠ざけていた。
(でも清瀬家のひとたちは、俺を守ってくれた)
中傷など、清瀬の知らぬところでもたくさんあったと思う。清瀬自身、奇異の目で見られることがあったのだ。その親となった両親は、心無い言葉の標的になったに違いない。
それでも、愛してくれた。
罵られたことも。軽んじられたことも。清瀬の記憶には一つもない。
実子の梢と同じように接してもらえた。行事ごとには必ず来てくれたし、悪さをしたら本気で怒られた。誕生日には祝ってくれて、特別な日でなくとも毎日過ごす中で愛情を注いでもらった。
実の子でない、ということを忘れるくらいに。
(どうして俺を愛してくれたのだろう…)
清瀬はずっと考えてきた。