慟哭の箱 5
広々とした駐車スペースに車を停める。隣には、父の軽トラと、母のかわいらしい軽自動車。ここに来るまでは緊張が優っていたが、家を目の前にすると早く会いたいという思いがせわしなく駆け巡ってくるから不思議だった。
「どこだー!!!!でてこーーーーい!!!!」
家の裏手から突然大きな声が響き、清瀬は弾かれたように振り返る。父の声だ。
「あなた!裏よ、裏に回ったわ!」
「母さん、竹ぼうきを持ってきなさい!」
「わかったわ!待ってて!マッハで行く!」
何事だ?母の声もする。あわただしい足音。
まさか強盗?そして、強盗相手に竹ぼうき?
「あなた、竹ぼうきよ!」
「よおし、こい!」
だめだめだめ!!強盗相手に竹ぼうきはだめ!!
「父さん、母さん!」
清瀬は猛ダッシュして家の裏手に回り込んだ。くそ、拳銃くらい持ってくればよかった、と焦った頭は冷静さを欠いたことを考えている。
「…えっ」
駆け付けた清瀬が家の裏で見たものは。
ブー、ブキキッ
奥の雑木林へ向かって逃げていくイノシシの姿だった。
「この時期にも増えてるなあ」
「困ったわねえ。って、あら巽じゃないの」
「おう、戻ったのか」
イノシシって…。
へにゃ、と気の抜けた清瀬に、両親はけろりとした笑みを向けてくる。
「やあっと戻ったのねえ。おかえんなさい」
「ご無沙汰しています」
「またそんなクソ小難しい日本語使ってもう!ちょうどよかった、夕飯もうすぐだから、入って待ってなさいな」
手伝いますと申し出るが、ゆっくりしなさいよと笑われる。