慟哭の箱 5
「俺…ちゃんと思い出したいです」
旭は自身の覚悟を伝える。野上と、己のなかで聞いているであろう者たちに。
「ちゃんと…自分と、ほかのみんなと向き合って…どういう思いで生きてきたのか知りたいし、望みがあるなら叶えてあげたいんです」
自分はずっと、彼らに守られて生きてきたのだから。
「そうだね」
「まずはこの前話していた、通夜の夜の出来事を思い出したいです」
うん、うん、と野上は穏やかに頷いてくれている。こちらの意思がちゃんと届いているのだと安心させてくれる話の聞き方だった。
「きみの思いはわかったよ。だけどこれだけは知っておいてね」
「…?」
「一度にたくさんのことを思い出すのは難しい。きみの心は、これまでたくさん怖い思いをしてきたから、思い出すこと自体を拒むかもしれない」
頷く。
そう。この心は、持ち主の旭にすら、閉ざされているのだ。簡単にはこじ開くまい。
「長い時間がかかることなの。だから気長に、ゆっくりとやっていこう。真尋くんたちのためにも」
「はい」
「よし。じゃあ、始めようか」
そういうと、野上は催眠療法についての説明を始める。催眠をかけることで、心の深い部分にまで意識を落とす。そこは潜在意識と呼ばれ、普段自分自身には感知できない分野であるという。ここに眠る記憶や感情を紐解こうというのだ。
「さあ、リラックスしてね」
身体を横たえ、目を閉じる。言われるままに心身の力を抜く。四肢にゆきわたる緊張が、静かな声によってほどけていく…。