慟哭の箱 4
絶句する旭の前で、清瀬が鳴りだした携帯をスーツの内ポケットから取り出す。
「はい。はあ、そのつもりです。はい、わかりました」
清瀬は慌てて立ち上がる。
「くわしいことは野上先生に伝えてある。夜にまた話そう。今日は本業に戻らないと。俺は先に出るけど大丈夫か?」
「はい」
コートを羽織りながら靴をひっかける清瀬を、玄関まで見送る。
「じゃあ、夜にまた」
「はい」
清瀬が出ていった扉を見つめる。何か、思い出せそうな気がして、集中するため呼吸をとめる。
(俺の知らない俺…)
清瀬の言葉を反芻して、旭は気づいた。
(そうだ…夢…いろんなひとが話してた)
そして、旭は驚くくらいすんなりと、その結論に至って受け入れる。
(あれは…俺のなかにいるひとたちなんだ…)
潜在化していた人格たちが、旭を取り巻く環境の変化と、旭自身の心の揺らぎによって顕在化している。それを旭はまだ知らないが、この気づきは彼の運命を一気に加速させていくことになるのだった。