慟哭の箱 4
仮面
翌朝目覚めると、旭は昨日の記憶が抜けていることに気づく。まただ、どうやってこのベッドで眠ったのか思い出せない。梢と桜に会って、それから…。
(…なんか夢、夢で何か聞いた気がする。思い出せそうなのに…)
かすみがかった頭では、暗い、不安といったイメージしか再現できない。起き上がって、灰色のカーテンの向こうを見つめる。
(なんだろう、たくさんのひとに、ついさっきまで会っていたような気がする)
一人きりの寝室なのに、さっきまでそばにたくさんのひとがいたような感覚が残っているのだ。
「須賀くん」
「は、はい」
ノックと一緒に清瀬に声をかけられ、夢の痕跡を追うことを中断した。壁の時計を見ると七時前だった。
「おはよう」
扉を開けると、身なりを整えた清瀬が立っている。早起きだ。もう出勤するらしい。
「おはようございます。すみません、すぐに支度します」
今日こそ野上のカウンセリングを受けるのだ。このわけのわからない状況から抜け出すために。
「慌てなくていい。まだ時間があるから、ゆっくり朝食を食べようか」
清瀬が準備してくれた朝食は、みそ汁と焼鮭、卵焼きにほうれん草のひたしという和食だった。旭はまったく自炊しないので、こういうのにはちょっと感動してしまう。
「きみが記憶を失ってしまう要因がわかったかもしれない」
「えっ」
唐突に言われ、旭は間抜けな声で応じてしまった。清瀬は箸をきれいに使いながら続ける。
「きみと生活して、俺はいろんなことを知ったし、見た。おそらくきみ自身が知らないことも」
「…どんな、」
「きみの知らないきみに会ったよ」
何を言うのだ…?