慟哭の箱 4
「もう日付が変わるな…」
「話はまたできるよ。刑事サン、身体壊すからもう寝なよ」
「…そうだな。風呂に入って寝ることにする」
そうそう、そうしたほうがいい。社会人は遅刻とかしたら大変なんだろうし。
「今日はありがとう」
ありがとうだって?突然礼を言われて、真尋は面食らう。大人から礼を言われるなんて初めてのことだった。
「また話を聞かせてくれ」
欠伸をしながらネクタイを緩めた清瀬がベッドに倒れこむ。
「そりゃ構わないけど…どうして刑事サンは旭のためにここまでするの」
しょせんは他人ではないか。彼は事件が解決すればそれでいいはずなのだ。それなのに。
「だって困ってるだろ…」
「はあ?」
「かわいそうでなあ…」
「かわいそう…?」
眠そうな声に聞き返しても、返事はなかった。
「えっ、ちょっと、風呂はいんないの?」
返ってくるのは寝息のみ。本当に疲れているのだ。寝かしてやったほうがいいだろう。真尋は毛布をかけてやる。
(…こんな大人もいるのか)
このひとが裏切るかもしれないのだと、真尋は考えたくなかった。だけど。
(だけど…)
裏切るかも、しれない。
大人に傷つけられてきた真尋には、その疑いを捨てることはできない。猜疑心を持たなければ、また同じことの繰り返し。自分たちを守るのは、警戒なのだと知っている。
(…悲しいな、このひとを心から信じられないっていうのは)
かわいそうだと。
清瀬は言った。一弥ならば、お門違いの同情だと、きっとそう笑う。
だけど真尋には笑って一蹴などできない。自分がずっと求めてきたものが、その安っぽいごくありふれた感情なのだと知っているから。