慟哭の箱 4
勝手知ったる台所でコーヒーを淹れながら、真尋は一弥に言われたことを思い出していた。
(あの刑事さんが裏切るって…一弥は確信しているみたいだ)
本当にそうかなあ、とフィルターに湯をそそぎながら考える。あの清瀬という刑事が、他人の心を踏みにじるような人間には見えない。少なくとも、これまで旭の周りにいた大人とは絶対的に違う人種だった。
(あのひとなら、俺たちを助けてくれるんじゃないかなあ)
そんなことを思う。だけど一弥は肯定しないだろう。
(俺の意思じゃあ、どうにもならないか…)
カップを二つ手にして部屋に戻ると、清瀬がデスクで考え込んでいた。
「ん」
「ああ、すまんな。ありがとう」
カップを受け取り眉間をもむ彼の顔には、濃い疲労が見られる。しわくちゃのワイシャツ姿。帰宅して休む間もなく資料を読んでいたのだろう。
「ちょっと休憩したら。風呂でも入ってさ。若くなんだから無理しちゃだめだよ」
「若い。まだ三十四だ」
少しむっとした風にコーヒーをすするのがおかしかった。自分自身に無頓着な印象を受けたが、年寄扱いされて怒っているようだ。なんだか愉快な気持ちで、真尋はベッドに腰掛けてコーヒーを飲む。