慟哭の箱 4
「渡していい情報はわかっているな。余計なことまで喋るなよ」
それに答えたのは、スニーカーの足元だった。
「…わかってるってば。一弥(いちや)の言う通りにする」
「ならいいが」
「でもさ、俺も涼太の言うように、刑事さんは信頼できると思うけど?」
その言葉を、一弥と呼ばれた男が、沈黙でもって両断する。
(刑事って、清瀬さんのことか?)
混乱する旭の耳に、再び一弥の冷たい声が届く。
「大人は信用しない。あの刑事も、きっと裏切るに決まってる。ここにいる者以外を信じるな。安っぽい優しさに惑わされ、旭や俺たちを危険にさらすようなことになったら、迷わずおまえを切り捨てる」
突き放す言い方。選択権を与えない、支配者の言葉だった。わかったよ、とため息交じりの真尋の声。
真尋が椅子を軋ませて立ち上がったとき。
「!」
突如目の前に、スポットライトのような光があたり、空間が照らし出された。輪になって並ぶ椅子の中央に、一脚だけ椅子が置かれて、そこにだけ、スポットライトが当たっている。周りの椅子も鮮明に見えた。座っている足元も。だが顔は暗くて見えない。座っているのは、旭を含めて6人。
立ち上がっているのが真尋だろう。彼はスポットライトの下に立ち、中央の椅子に座った。旭からは彼の背中しか見えない。明るい色の髪が揺れている。
「じゃー行ってくるね」
真尋の声を聴いた後、旭の意識が遠のいた。