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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 4

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椅子



気が付くと、旭は椅子に座っていた。軋む音からすると粗末なパイプ椅子らしいがよく見えない。あたりは薄暗くて、視界がきかないのだ。ここはどこだろう。

「ねえ、本当にいいのかしら?」

女性の声が空間に響く。はっとして顔をあげると、隣に誰か座っている。足元がうすぼんやりと見えるくらいで、姿や顔はわからない。足元は、華奢なヒールのサンダルを履いている。

「…別にどうでもいーよ」

男の声。女性の隣に足元が見える。同じように椅子に腰かけているようだ。裸足だ。

(ここは何だろう…このひとたちは誰だ…)

旭は目をすがめてあたりを観察した。よくよく見れば、数脚の椅子が、輪になっておかれており、そこに旭を含めた何人かが座っているのだった。足元だけがぼんやりと見える。囁くように会話をしている者たち。

「…ぼくは、おまわりさんを信じる。あのひとはいいひとじゃないかな…。それに真尋なら、うまくやれるもん」

子どもの声も聞こえる。ビーチサンダルをはいた足は床につかず、不安げに揺れている。

(おまわりさん…?なんの話だろう…)

旭は、会話に入れずに聞いていることしかできない。

「真尋(まひろ)」

ぞくりとするくらい冷たい声が響いて、旭は身体をこわばらせた。若い男の声だったが、感情がない。冷たく、氷のような声。その男の足元は、きれいに磨かれた革靴だった。

作品名:慟哭の箱 4 作家名:ひなた眞白