慟哭の箱 4
「だけど、俺が人殺しの子である事実は消えない。俺は…自分を守るために、刑事になったんだ」
「…守る、ため?」
「俺は殺人を犯したものを裁くことで…許されたいと、思っているんだろうな」
その理屈は、なんとなく理解できた。彼は、社会の、そして善良なる清瀬家の人々の敵になりたくないのだ。悪を裁くことで、自分を正義であると証明している。
「きみが殺人を犯しているなら、俺は冷酷になれるかもしれない。俺の両親と同じだと、さげすむかもしれない」
「………」
「だけど思うんだ。清瀬の両親は、どうして殺人者の息子を愛せたのかなって。きみの過去をこれから知って、きみたちの苦しみを知って…そうすれば、何か変わるのかもしれないけれど」
そういって、清瀬はふっと表情を和らげた。
「きみの中の誰かが殺したとは、まだわからない。あいつら、きみを不利に追い込むようなことをするだろうか」
「…そうですよね」
沈黙。殺していないかもしれない。だけど間違いなく殺しにかかわっている。
いつか、清瀬とは刑事と被告人として対峙する日が来るかもしれない。
(俺は、勝手だ…)
まずは現状を受け入れなければいけないのだ。自身が事件の当事者であること。大きな疾患を抱えていること。清瀬から糾弾される立場になったとしても、自分は生きぬかねばならないこと。
「あ、そうだ。明日から実家に戻ってくる」
「えっ」
先ほどまでの重たい空気がウソのような口調で、清瀬が突然言った。
「なんかサツマイモやら柿やらがいっぱいとれたから、取りに来いって両親が」
「サツマイモ…ですか」
「正月も帰らなかったから、顔見せてくるよ。短い休暇をもぎとってきた」
そう言って笑う。何か吹っ切れたかのような表情だった。