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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 4

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だけど。

「…俺が、いま一番不安なことは、」
「うん?」
「清瀬さんの信頼を…失ってしまうことです…」

どういうこと、と冷静に返ってくる声。

「清瀬さんは、刑事です。もしも俺の両親を殺したのが俺の中の誰かなら…あなたはもう俺を、こんなふうに庇ってはくれない。俺はそれが、すごく恐ろしいんです…」

清瀬は黙っている。
旭に対する疑惑が、清瀬にないはずはなかった。清瀬は刑事で、鋭い洞察力を持っている。旭の中の誰かが両親を殺したのだとすると、旭は人殺しだ。裁判で多重人格者がどうなるかなんてわからないけれど、社会的な地位を失うことよりも、このひとから見放されることが何より恐ろしいと思う。

それほどまでに、清瀬から与えられるやすらぎは特別だった。たとえるなら、ひな鳥が最初に見たものを親と思い込む行動にも似た、盲目的で、しかし生物学的に非常に正しい惹かれ方をしてるのだと思う。清瀬は旭が出会った、初めて信じることのできる大人だった。

「…俺の話を、するよ」

長い沈黙のあとで、清瀬が口を開いた。

「俺もきみと同じで、実の両親をなくしている。俺は養子として清瀬家に引き取られて、梢とも血の繋がりはない」

旭は黙って聞く。雨の音が聞こえる。今夜も雨だ。

「俺の本当の両親は、二人そろって屑だった。俺は半ば遺棄されて育ち、逃げることもできずに毎日息を殺しながら一日が過ぎるのを待った。暴力と罵声だけしか思い出せないくらいに」

清瀬の優しい瞳の奥に、見たこともない冷たい色が浮かんでくる。彼の暗闇だった。

「小学校二年生のとき、両親が借金がらみで知人を刺し殺して逃げた。逃走中に事故おこして二人とも死んだ。俺は人殺しの息子になった」
「……」
「そんな俺を、清瀬の両親は愛してくれた。縁もゆかりもない俺のことを知って…小学校の教員だった二人が引き取ると名乗り出たんだ。ウソだろって思った。どんだけ偽善者なんだよって。だけど、両親も、梢も、心から俺を大切にしてくれた。世間の視線から、暗く孤独な夜から、俺を守ってくれた…」

清瀬の目が細められた。穏やかな感情ばかりを見せる彼の、感情を押し殺すような目。泣きたいのをこらえているかのような。

作品名:慟哭の箱 4 作家名:ひなた眞白