慟哭の箱 4
「…そんな心配そうにしなくても、ちゃんと戻ってくるよ」
「……はい」
このまま見捨てられるかもしれない。旭はそんなことを思う自分に、ほかの誰かの意思が作用しているのを感じる。清瀬は絶対にそんなことをしないのだ。だけど、己の中には、大人に裏切られ悲しんだことのある者がいる。そう感じる。
(すごく不安で、清瀬さんのことを…憎らしく思う。俺の中の誰かが、そう感じているんだ…)
己の中に他者がいる。それを認めたことで、旭はその他者の存在を感じられるようになったのだと野上は言っていた。
(でも俺は…清瀬さんを信じたい)
殺人者の息子。
そんな十字架を負ってもなお、他者を思いやれる清瀬を。
優しさは、悲しみや苦しみを知っているから持てるのだと、旭はそう思うから。
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