慟哭の箱 4
「すまんすまん、俺こそ。別に湿っぽい話じゃないから気にしないでくれ」
「は、はい…」
今はもう、他人の目など気にならない。養子になったこと、それで引け目や負い目を感じることもない。愛してくれた清瀬の両親が、そんなものは吹っ飛ばしてくれたから。この家の子でいれることは誇りだから。
それでも、考える夜がある。
どうして自分は、あのひとたちの本当の子どもに生まれなかったのだろう。
本当の本当にこの温かいひとの子どもだったら、どんなにいいだろう。
自分の中に流れているのは、清瀬家の優しく温かな血ではない。
だって自分の本当の両親は――
「あ、清瀬さん!四時から打ち合わせですよ!」
「ん、そろそろ戻るか」
「はい」
思考は途切れ、忙しい時間の中に埋没していく。考えようとしないようにしても、それは日常の些細な隙間から清瀬を苦しめるため浮上してくる。そのたび清瀬は思い知る。自分に、幸せになる権利はないのだと。
実の両親の罪は、子である己の罪だから。
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