慟哭の箱 4
傷跡
ようやっと昼食にありつける。朝から働きづめで、食事のために外出が許されたのは三時を前にした頃。沢木と二人、署の近くのラーメン屋の席に腰を下ろした。
「腹減りましたねえ~」
「すまん、俺につきあわせてしまった。おごるよ」
「えっ!でもいいんですか」
「ほんとはもっといいもの奢ってやりたいとこなんだけど、それはまた今度」
ありがとうございます、と嬉しそうに頭を下げる沢木。変に遠慮せず素直に好意を受け入れてくれるあたりが、清瀬には心地いい。
注文した品を食べながら、清瀬は野上と旭のことを思う。
(カウンセリング…まずは須賀くんが、己の中の交代人格の存在を受け入れることが第一歩だと先生は言ったが…)
彼は、それをすんなりと受け入れることができるだろうか。他人である清瀬でさえ、あの人格交代を目の当たりにして混乱したのだ。旭の苦悩はうかがい知れない。
「ん」
内ポケットでメールの着信音が鳴る。メール画面を開き、内容を読む。思わず吹き出してしまった。
「なんかおもしろい連絡っすか」
「いや。父から」
携帯を沢木に渡す。目を通した沢木もまた、目じりを下げて笑った。
『野菜とれた。いつくるか。顔みせろ\(^o^)/』
電報のようなかたことの文面、携帯に不慣れな父が打ったもの。不器用さと、それでも連絡をくれる心遣いが嬉しかった。へんてこりんな顔文字がまた笑いを誘う。どうやら野菜を取りに来い、ついでに顔もみせろとのことらしい。
「清瀬さん、実家このへんなんすか?」
「隣町。田舎だよ」
「農家?」
「両親とも教員だった。今は引退して、公民館で陶芸やら料理教えたり、趣味で畑作ったりしてるよ」