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相思花~王の涙~ 【後編】

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 愕くソナには頓着せず、下に穿いたズボンを脱がせ、下履きも取り去ってしまう。淡い下生えの叢(くさむら)がまともに明るい陽に晒された。ソナは真っ赤になり、慌てて両手で下腹部を隠そうとするのをハンが手で制止した。
「隠すな」
「でも」
 ソナは戸惑い揺れる瞳でハンを見上げる。
「そなたのすべてを明るいところで見たい。せめて、今日だけは私の好きなようにさせてくれ」
 ハンはソナの手を優しくどけると、大きな手のひらでソナのなめらかな恥丘をゆっくりと何度も撫でた。熱っぽい瞳がソナの秘所をゆっくりと視姦する。彼の視線が辿った箇所はことごとく焦げてしまいそうなほどの熱を孕んでいた。
 元々、あるかないほどの淡い下生えしかないのだ。ソナは恥ずかしさで、このまま消えてしまいたかった。羞恥に耐えていると、叢を撫でていたハンの手が上に上がり、無駄な肉のついていない腹の上ですべるように動いた。
「少し肉がついたか?」
 つと顔を上げて、かすかな期待を込めた瞳で問いかける。
「もしや」
 ソナはハンの心にある想いを正しく理解した。残念ながら、ハンの期待に頷くことはできない。何故なら、数日前に月のもの(生理)が終わったばかりだったからだ。
 ゆっくりとかぶりを振ったソナに、ハンの整った顔にあからさまな落胆が滲んだ。
「―そうか」
 だが、また優しい笑顔を向けるのは、彼らしい気遣いだ。
「それでは、太ったのかな?」
 それにはソナは頬を膨らませた。
「ひどい」
 ハンが愉快そうに笑う。
「単に着痩せしているだけなのだろう」
 また悪戯な手が伸びてきて、下生えに触れる。その手をソナは軽く叩いた。
「いてっ」
「恥ずかしいですから、もう、ここは止めて下さい」
「あまりに頑ななのも興ざめだぞ」
 今度はハンが不満顔だ。まるで玩具を途中で取り上げられてしまった幼子のようである。ソナが笑うと、凝りもせずまた手が伸びてきた。
 その手を叩こうとして、咄嗟に逆にソナは腕を掴まれた。空いた方の手が胸に巻いた布を器用にするすると解いていく。はらりと布が落ち、まろやかな乳房が零れ落ちた。骨張った手のひらに胸を包み込まれ、そっと優しく揉まれる。ハンの顔が近づいたかと思うと、優しく胸に口づけ(キス)された。
 
 血の色をした褥が何とも淫猥だ―、そう思うだけの余裕があったのはほんの始まりの一瞬にすぎなかった。
 わずかな時間の間に、彼にどれだけ翻弄されたのだろう。
 ソナは深紅の夜具に俯せになったまま、夜具を握りしめる。
「―っ」
 ハンは背後からソナに覆い被さり、肩を軽く咬んだ。
「痛いっ」
 小さな悲鳴を上げると、ハンがすかさず咬み痕をねっとりと舐め上げる。肉厚の舌で優しく撫でられると、咬まれた先刻とは裏腹に心地良さがじんわりとひろがる。痛みと心地良さを交互に与えられるのだ。
 後ろから、ハンがひと突きで挿入ってくる。
「ぁあっ」
 ソナのか細い身体が弓なりに仰け反った。「そんな表情(かお)をして、私を煽っているのか?」
 欲情に濡れた声と共にハンから放たれた熱い淫液がソナの最奥に注ぎ込まれた。
 その次、ソナがハンの身体中を隈無く舌で辿った。不思議なことに、ソナはハンと幾度も夜を共にしていても今回、初めて知ったのだが、男もまた胸乳を弄られると感じるらしい。
 ソナは新たな発見に興奮気味で、ハンの小さな胸の尖りをいつも彼がソナに対してしているように口に含んで吸ったり、舐めたり、舌で扱いたりしてみた。その度に、ハンは恍惚とした表情を浮かべ、その口からは抑えた呻き声がひっきりなしに洩れた。
 甘い責め苦から漸く解放されたハンは、その仕返しとばかりに反撃を始めた。ソナの白い身体中に口づけの雨を降らし、雪膚にくっきりとした紅い花びらを刻み込んでいったのだ。
 軽く咬んでは優しく吸い上げるのを繰り返す。あたかもソナが王の女であるということをその身体に刻みつけておくかのように、ゆっくりと何度も同じ行為を繰り返した。白い膚に紅い舌が這っている様をソナはむろん直接見るわけではないが、想像しただけで、何とも艶めかしく、ゾクリと身体が震えた。 
 舐められる度に背筋からかすかな戦慄が走り、それは漣のように全身を駆け巡りソナの下半身―ハン自身を深く銜え込まされている蜜壁に達した。
「う、ぅうっ、あ―あぁ」
 あえかな声を洩らすと、その声にすら感じ入ったように背後から覆い被さった男が熱い吐息を洩らす。
 また、蜜壺に挿し入れられたハンの剛直が固さと大きさを増した。
 ツキリとした小さな痛みの後、ねっとりと紅い舌が白い素肌を這う。男は自らがつけた所有のしるしを宥めるように舌で丹念に舐める。
 いたぶられて、労られて。
 交互に与えられる責め苦が余計にソナを追い上げていった。烈しく互いを求め合ったがために、あまりにも深い場所で繋がり合い、どこまでが自分で、どこまでが彼か判別さえつかなくなっている。自分の蜜壺から滴る体液が彼の放った淫液なのか自分から湧き出る蜜水なのか判らない。
 その日、二人はこれまでになく最も深い場所で溶け合い、繋がり合った。
 室はさして広さはないが、二人を上客と見込んだ女将はその見世でも最も上等な部屋へ通したらしい。室には妓生が使うらしい伽耶琴と螺鈿細工の鏡台が片隅に配置され、壁には額に収まった牡丹とつがいの蝶の色鮮やかな刺繍が飾られている。八角形に切りとられた格子窓には、艶めかしい紅色の紗が長く垂れ、風もないのに、かすかに揺れていた。
 やはり、二人がこれまで夜を過ごしてきた後宮、或いは大殿の寝所とは明らかに雰囲気が異なり、色宿らしい淫靡さがそこここに満ちている。その日、ハンが挑むようにソナの身体を幾度も組み敷いたのも、初めは恥じらっていたソナが常の営み以上に燃えたのも、やはり妓房という特殊な場所だったからかもしれない。
 黒檀の小箪笥の上には花器に深紅の花が活けられている。見た目は椿に似ているが、九月に椿や山茶花でもないだろう。
 どうやらその花に眼をとめたらしいハンの眼にまた悪戯な光がまたたいた。まだ烈しい営みの余韻から抜け出せず、忘我の境地を流離っていたソナはぼんやりと仰向けで天井を眺めていた。
 一旦ソナから離れた彼が花器から一輪の花を取り、こちらに戻ってくる。数枚の花びらを摘み取り、盃を酒で満たし花びらを浮かべた。
「―殿下?」
 しばらく離れていたハンが戻ってきて、ソナは虚ろな声で問いかける。
 突如として、胸の先端にヒヤリとしたものを当てられ、ソナは悲鳴を上げて我に返った。
「何を―」
 ソナは衝撃と不安に瞳を揺らし、ハンを見やる。胸許を見て、ソナは息を呑んだ。何の酒か知らねど、ねっとりした粘着質な酒に浸した花びらはまるで吸いついたかのようにソナの乳首に貼り付いている。
 また冷たい感触が胸にひろがり、ハンがもう一方の乳首にも花びらを貼り付けたのだと知った。
「殿下、お戯れが過ぎます」
 ソナが抗議しようとするのに、ハンが?シッ?と人差し指を自らの唇に当てた。
「今日だけは私の好きなようにさせてくれると約束したであろう?」