慟哭の箱 3
小さな手に引かれる。心がほっこりとあたたかくなる。なんて小さくて、そしていとおしいのだろう。殺伐としていた心が、静かにほどけていく感覚。
「はい、みんなでいただきますしよっか」
「いただきまーす」
食卓にはオムライスがのっていた。卵がとろとろで食欲をそそる。隣では桜が、スプーンを上手に使っておいしそうにゼリーを頬張っている。不意に旭のおなかが鳴った。
「うふふっ、おにいちゃんのお腹、グーってしたよ。おひるごはんお寝坊さんしたもんね」
隣で桜が屈託なく言うものだから、旭も自分で吹き出してしまった。梢も笑っている。なごやかな昼食は、旭の心を落ち着かせた。やさしい味のオムライスは、体中を温めてくれるようだった。
これまで、食事を特別喜びや楽しみに結びつけることはなかったが、清瀬や梢と出会ってから、食事は特別なものになった。腹と一緒に、心も満たされる。一緒に食べるひとの存在は大きい。逆に言えば旭は、これまで食事をともに楽しむ存在がなかったのだ。両親とさえ、こんなふうに向かい合って食事をしたことなど稀だった。
寂しい親子関係だった。そう思う。
「ごちそうさまでしたあ」
「桜ちゃん、お口のまわり拭こうか」
「んー」
食べかすのついた口を手拭いで拭いてやる。
「ありがとお」
にっこり笑って、旭にぎゅうっと抱き付いてくる。その温かさを意識した瞬間。
「……」
誰かが耳元でささやく声を聴いた。あれ、と思う間もなく世界が暗闇に包まれる。