慟哭の箱 2
「何か話したいことがあるって言うから、あなたも呼んだのよ」
「話したいこと・・・なにかな」
野上にコーヒーカップを渡された清瀬は、彼女の隣にパイプ椅子を引き寄せて座った。
この二人は旭の言葉を軽々しく扱わないと知っている。だから。
「・・・あの夜、どうして両親が死んだのか・・・俺にはやっぱり思い出せないんです」
「記憶はまだ、戻らないか」
「・・・それだけじゃないんです。俺、通夜に参加して、それから葬儀が終わるまでの間、記憶がないんです」
え、と二人が同時に口を開けて驚く。嘘ではない。通夜の夜・・・親族や両親の会社の人間がいたことは覚えている。だけどその夜・・・どうやって眠ったのか、わからない。時間がぶつりと途切れ、気づいたときには捜査員らと車に乗り、こちらに戻る途中だったのだ。
「信じて・・・もらえないかもしれないけど・・・」
「本当に?まったく覚えてないの?」
「はい」
野上に問われ、頷く。証拠などない。目には見えない感覚を正確に伝えることは難しくて、旭はもどかしくなる。
「・・・でもそれって、今に始まったことじゃ、ないんです」
正直に話す決意をする。
「子どもの頃から・・・こうやって、記憶が抜け落ちてることがあったんです。全部を忘れているんじゃなくて、一部だけ抜け落ちている。記憶がないって言うよりも、なんていうのかな・・・覚えていない忘れたっていうよりも・・・体験していないみたいな感覚なんです」
清瀬の目がすっと細められるのが見える。旭は罪を吐き出すような思いで続けた。
「・・・そのせいでなにか弊害があるわけでもなくて、気のせいかな、きっと疲れてたんだって思うようにしてました。だけど今回のことがあって、これってやっぱりおかしいんじゃないかって・・・不安になって・・・」
旭は二人を見る。