慟哭の箱 2
断絶
九時が近い。デスクワークで凝り固まった全身を伸ばす。清瀬の隣では、沢木が報告書を書きながらうなっていた。今日は旭が戻ってくる夜だ。通夜と葬儀を終え、その後の仏事は叔父夫婦に任せてあるという。旭は事件の目撃者でもあるし、彼がいなくては捜査も進まない。
「清瀬―、三番に電話―」
「はい」
受話器をとると、秋田だった。捜査員とともに旭が戻ってきたそうだ。しかし消耗しており、野上医師の診察を受けるため病院にいるという。礼を言って電話を切ってから、清瀬は帰り支度を整える。ぐったりした沢木を労い署を出た。
(雨が・・・)
暗い空から雨が落ちてくる。静まり返ったとおりに響く、囁くような雨の音。不安をかきたてるようなその静かな音に、清瀬は己の中に生まれた疑念を思い出す。襲撃の夜の、あの不可思議なできごと。そして。
(須賀くんへの・・・疑惑)
まだ誰にも話してはいないが、清瀬はあの青年がただの目撃者ではないということを確信していた。絶対に目を離してはいけないと、清瀬の勘が告げているのだ。