慟哭の箱 2
おまえは旭の敵か
襲撃者は言った。黒い影。低い声。おそらく男。強い力で締め上げられ、一時意識を失った。すぐに目覚め、慌てて旭の様子を見に行った。彼は無事だった。ほっとした清瀬だったが、襲撃者の姿は消えており、なんの手がかりも得ることはできなかった。
勿論旭自身も、深い眠りの中にいたようで、何かに気づいたり接触した様子もなかった。
(敵ならば容赦はしないと言っていたな・・・)
だからあれはつまり、旭を殺そうとやってきたわけではないということか。旭を護っている者?親族?友人?何者なのだ・・・。彼の周囲を洗う必要があるかもしれない。
昨夜のことを考えているうちに昼になり、定時を迎える。その後もこまごまとした雑務をこなして沢木とともに署を出る九時すぎには、雨があがっていた。
「通夜も終わった頃ですかね」
「ああ・・・」
コンビニでビールやつまみを買い込みながら、沢木がしんみりと呟く。旭はどうしているだろうか、と清瀬も彼に思いを馳せる。憔悴しているだろう。昨夜はゆっくり眠っていたとはいえ、彼を取り巻く現実が消えてなくなったわけではないのだ。
「じゃーお邪魔しまーす」
「はいはい」
「ビールとか冷蔵庫入れていいスか?」
「うん、頼む」
扉をしめて鍵を回し、チェーンをかける。
「清瀬さん、冷蔵庫にちゃんと野菜やらある。意外に自炊とかするんスね」
「いや、それは・・・妹・・・が、」
「清瀬さん?」
チェーンをかけた手をとめたまま、清瀬は制止していた。
「どうしました?」
思考がぐるぐる回りだす。チェーン。どくん、と心臓が波打つのが聞こえてくる。