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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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慟哭の箱 2

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(・・・言いたくないことの一つや二つか、)

清瀬は湯船につかって考える。浴槽に肘をつき、旭との会話を思い出していた。誰にだって過去がある。清瀬にとってそれは、触れられたくない部分というよりも、己自身が目を逸らしたい箇所である。

(あの子の記憶は、どうしてうまく繋がっていないのかな)

脳に疾患が考えられると旭本人は言うのだが、野上はそうは思ってはいないようだった。問題なのは身体の組織の異常などではなく、心のほうではないかと。

(とにかく野上先生に任せるしかないか・・・)

もう寝よう。疲れた。湯船からあがり、寝る支度を整える。歯みがきをしようと洗面台の前に立ったときだった。


「――ねえ」


すりガラスの扉の向こうから話しかけられた。

「どうした?眠れないのか?」

旭が入ってくる気配はない。すりガラスの向こうの不透明なシルエットは、動かない。そのまま声だけが響いてくる。

「ねえ清瀬さん」

ざり、と指先ですりガラスをひっかく指先。ざり、ざり。不快な音・・・。


「こっちには、一つや二つどころか、知られたくないことが山ほどあるんだよ」


その口調に、不穏なものを感じ、清瀬は動けなくなる。自信に満ちた、余裕のある話し方だった。違和感と、その違和感をどう処理していいのかわからず、清瀬は立ち尽くす。

作品名:慟哭の箱 2 作家名:ひなた眞白