小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

慟哭の箱 2

INDEX|10ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

発現



久しぶりに戻った清瀬の家には、さざめく人々の声も、刑事の恫喝も、雨夜のように続く不安もない。肩から力が抜けて、膝を突きそうになる。やっと眠れる、そう思う自分を、旭は冷血だと感じた。両親が死んで、葬儀の記憶もない。尊いものを失ったのに、わずらわしさから開放されて眠れることにほっとしているなんて。

「もう遅いし、風呂に入って寝ようか」

清瀬の声にも疲労のようなものが滲んでいる。壁の時計を見れば、日付が変わろうとしていた。

「明日からのことは野上先生に任せていいと思う。信頼できるお医者さんのようだし」
「はい・・・」

考えても仕方ない。自分にできることをやるしかないのだから。

「あの、清瀬さん」
「うん?」
「・・・黙っていてすみません、記憶のこと」

ここにいられなくなることが怖くて、言い出せなかった。清瀬は特に気にした様子もなくヤカンに水を汲んでいる。

「いいよ、そんなことは」
「でも、捜査に関係あることなのに、俺・・・」
「誰にだってあるだろう。言いたくないことの、一つや二つ」

コンロにヤカンをかける清瀬の痩せた背中を見つめる。

「・・・清瀬さんにも?」

しん、と沈黙が、冷たさの隙間からやってくる。清瀬が振り返る。こちらを見つめる、少し困ったように笑う表情。

「――き、」

声をかけることが、できない。その表情が、どういうわけか、今にも泣き出しそうな子どものように見えたから。

「風呂へいっておいで」

清瀬は穏やかな声と一緒に再び背を向けてしまって、それ以上は応えてはくれなかった。大きく腕を開くようにして、何もかもを受け入れてくれる清瀬が、初めて立ち入ることを拒絶した瞬間。

作品名:慟哭の箱 2 作家名:ひなた眞白